SR Meeting 2019 エストニア視察 (後編)

※SR Meeting 2019 エストニア視察(前編)はこちら

e-estonia showroom

【概要】

  • 電子国家の取り組みを世界にPRする一環としてエストニア政府によって設置されたショールーム
  • エストニアの電子化の歴史や現在の仕組みなどを紹介する施設

【視察内容まとめ】
-エストニアのデジタル化が浸透してきた歴史
-エストニアにおける「デジタルID」とは
-海外在住者用のE-residencyについて
-「デジタル化」で可能となった具体的事例

【視察内容】
エストニアのデジタル化が浸透し現在の仕組みについて至るまでの歴史や現在の仕組みを学びました。デモンストレーションも交えながら「デジタルID」の使用感を見て、日本のマイナンバー制度との違いを確認しました。

エストニアのデジタル化が浸透してきた歴史

・背景
デジタル化は、エストニア人にとってメリットがありました。デジタル化により人と話す機会が減るからです。(エストニアは静かな方が多いため)お金、時間の節約そして社会的な背景も手伝って、デジタル化が進んでいきました。
また、制度をスタートする際、大統領が国民に「デジタル化をお願いする」というスタンスも非常に印象的でした。(その当時のメモがショールームにありました。)

デジタル化の仕組みにはパソコンと携帯電話を使って二重認証を取っているのですが、携帯電話の10G EU圏内で使えるプランでも利用料8ユーロ(1000円程度)
ドイツや日本だと会社が4Gネットワークを提供して高いお金を払っています。
エストニアはその技術を共有する方式をとっているので、サービスが安く提供できるそうです。
デジタルの仕組みだけでなく、デジタルデバイスが使いやすい環境というのも大切です。

エストニアにおける「デジタルID」とは

日本人でマイナンバーを覚えている人に出会ったことはありますか?
エストニアでは、日本のマイナンバーにあたる「デジタルID」は便利なので番号を覚えるそうです。

また、エストニアでは「デジタルID」そのものがキーではないので、それを人に見せても問題はありません。
「デジタルID」と頭の中にある「ピンコード」がそろって初めて機能する仕組みです。
この感覚は、マイナンバー(ID)そのものを慎重に扱っている日本と大きく異なる点ですね。

エストニアで普及している「デジタルID」は免許証や保険証の代わりにもなっており、エストニアではこのIDカードと銀行カードと交通カードの3枚だけ持ち歩いていることが多く、ポイントカードなどのシステムもすべてIDカードの中に含まれているそうです。また、電子投票や電子契約なども進んでおり、役所に行くような手続き以外でも様々なケースでデジタル化がなされています。
生活に密着したIDだからこそ浸透しているとも考えられますね。

デジタルIDカードにはログがしっかりと取られており、透明性が高い仕組みとなっているからこそ、エストニア国民は信頼してサービスを利用できるのかと、制度の根底を学ぶことができました。
(日本のマイナンバーカードについても、マイナポータルで番号情報が使用された履歴を確認することができます。)

「デジタル化」で可能となった具体的事例

救急車でマイナンバーを伝えると、インターネットにつながっている救急車がその情報を読み取れます。(血液型、アレルギー、薬・既往症)
1人の医者にみてもらって閲覧を保護したい情報があれば、自分で保護をかけ次の医者では見られないようにできます。

個人として車を買うと、車検登録の必要がありません。
車を売るとき 相手側からお金を受領・鍵や書類を受け取ればそれで手続きは完了です。
車のナンバーをポータルに入れると車の検査情報がわかります。
オーナーの情報はどこにもないので自由にみられます。
事故に関する情報も見られます。

生まれた子供の住所、情報をもとに通う予定の小学校を予約します。
必要なクラスの数や先生の数も確認できるようになります。

子供が生まれると、ポータルで「出生おめでとう」とメッセージが出てきます。
ただし、現在は支援の申し込みが必要です。なぜ必要なのか?自動化していないのか?と皆さん疑問に思っていたようですが
2020年までに7のサービスが追加される予定です。
「この仕組みは自動でできないのか?」と考えるアンテナが非常に高い印象を受けました。

MEKTORY

【概要】
・国立タリン工科大学が建てた、学生によるスタートアップ企業の支援を目的としたイノベーションビジネスセンター
・エストニアには学生によるスタートアップの成功を収め、立派な企業として活躍している会社もある
・数多くのエストニアの 科学や IT の側面、スタートアップの最新事情に触れることができる

【視察内容まとめ】
-スタートアップの集まるエリア、研究所やハイテクショールームの見学
-大学と在校生・卒業生との関係

【視察内容】
国立タリン工科大学が建てた、「メクトリー」という学生によるスタートアップ企業の支援を目的としたイノベーションビジネスセンターです。
エストニアのITの側面、スタートアップの最新事情を視察してきました。
小学校1年生からIT関連の知識・スキルを学んでおり、プログラミング言語はもちろんのこと、それらのツールを使いこなすための「ロジカル思考」の習得に重点が置かれていました。

スタートアップの集まるエリア、研究所やハイテクショールームの見学

大学は技術サポート、企業側は支援を行います。
三菱自動車の場合は、大学は技術サポートをし、企業側は電気自動車を供給したとのことです。

実際に、サムソンやエリクソンの出資するショールームや、日本を含めた様々な大使館の支援で作られた会議室がありました。
エストニアでは幼少期からの教育システムが充実しており、国全体としてのIT人材の増強に向けた取り組みがなされていました
コワーキングスペースを現在建設中で、今後顔認証でできるようにする予定とのことです。

国や大学もITに注力している様子がうかがえました。また、IT人材を育てようとする風土も感じられました。

大学と在校生・卒業生との関係

在学中に2ヶ月プログラムというものに参加でき、80チーム参加して起業するのは2、3つほどです。
大学の卒業生は5〜90歳まで大学とつながりを持てます。

視察のあしあと

訪れた人のサインをする場所があったため、しっかりとセルズの名前を刻んできました!

SAP

【概要】
・ドイツのヴァルドルフに本社を置くヨーロッパ最大級のソフトウェア会社
・企業の業務を統合して一括管理し効率化を図るソフトウェアを取り扱う

【視察内容まとめ】
-SAPの起源、成功のカギは「ヒト」
-デジタル化におけるシステムと人の関係

【視察内容】
あらゆる業種におけるあらゆる規模の企業を支援している会社です。これまでのITの歴史から最新のAIの状況まで体験しながら学んできました。AI技術の処理速度や機械学習にばかり目が行きがちですが、システムの実装にAIを使うのであれば、人が理解した上システムに教え込まなければ重大な事故などに発展するというそもそもの部分を学ぶことができました。

SAPの起源、成功のカギは「ヒト」

SAPは、元IBMの社員が設立した会社です。当時のIBMの社内で企画を上げたところ、上司に却下されたことをきっかけに独立を決めたそうです。
それ以来、トップダウンではなくボトムアップを重要視して教育をおこなってきたそうです。

デジタル化におけるシステムと人の関係

デジタル化が進みAIが台頭してきたとしても、常に人がシステムの上に立っています
システムは人の生活がより楽になるようにつかうもの、という概念を学ぶことができました。
行政の手続きは、法人設立や資格取得などの処理を「ラクにするもの」ということです。

まとめ(今後の社労士業界について)

各視察先を通じて分かったことは、行政の仕組み全てが自動化する訳ではないということです。便利になるためのツールを人が活用するのです。
例えば、生活保護の人に自動的に生活保護を適用するとどうなりますか?生きていることにプライドを持っている人にとっては苦痛に感じる可能性もあります。

人の心に寄り添って「申請ベース」で行うようなものは業務としてなくならないと予想します。また、SR Meeting 視察(前編)でご紹介したようなエストニアで残っている業務も日本ではなくならないでしょう。
社会の変化を恐れず、10年後20年後の社労士業界を常に考えていければと思います。

SR Meeting 2020の企画は現在構想段階です。決まりましたら弊社HP等でご案内してまいります。
どうぞご期待ください!